リンパ管疾患情報ステーション

日本発!リンパ管疾患に対するシロリムス療法!

難治性リンパ管疾患・血管腫に対するシロリムス療法は2010年頃に患者さんへの有効例が報告されて以来、有効性の報告が相次いでおり、日本でも当初は未承認薬として使用されていた経緯があります。

そこでリンパ管疾患研究班では、リンパ管疾患への適応拡大を目指し、2015年よりノーベルファーマ株式会社と提携し、2016年よりAMED臨床研究・治験推進研究事業「難治性リンパ管異常に対するシロリムス療法確立のための研究」班を開始。2017年より「難治性リンパ管疾患に対するNPC-12T(シロリムス)の有効性及び安全性を検討する多施設共同第V相医師主導治験」を実施しました。

また「難治性血管・リンパ管疾患に対するシロリムスの安全性及び有効性を検討する多施設共同非盲検非対照試験(特定臨床研究、jRCTs031180290)」、「難治性の脈管腫瘍・脈管奇形に対するNPC-12T(顆粒剤・錠剤)の有効性及び安全性を検討する多施設共同第V相医師主導治験」を実施しました。 我が国で医師主導治験により有効性を証明した結果、難治性リンパ管疾患に対するシロリムス(ラパリムス®)錠剤の使用が2021年に世界で初めて認可されました。

その後、本邦発で世界各国での承認に広がりました。2024年にはラパリムスの顆粒製剤が承認されたことにより、適応疾患の範囲を拡大して使用可能となっています。

はじめに
リンパ管疾患の中には、手術や硬化療法などの治療では、なかなか良くならない、完全に取りきることが難しい場合があります。生活に支障がない場合は、そのまま経過を見ることもありますが、@症状(出血や感染など)、A整容面(見た目の問題)、B機能面(機能障害、機能獲得障害)など、様々な理由で、「少しでも症状を改善させたい」「小さくしたい」ことがほとんどです。これまでも、いろいろな内服治療が試されてきましたが、期待通りの効果を示すものはほとんどありませんでした。

こうした中で、リンパ管疾患の原因は、細胞、血管に重要なPI3K/AKT/mTOR経路の遺伝子の働きが活発になっているためであることが、わかってきました。その遺伝子を抑える治療薬であるシロリムス(mTOR阻害剤)が認可されてからは、治療の選択肢が広がりました。


歴史と対象疾患 想定される薬効と効果
シロリムス(ラパマイシン)とは、イースター島の土壌細菌から単離された、抗真菌作用を持つマクロライド化合物で、mTOR(エムトール)という蛋白の働きを抑えることで、様々な疾患に対する有効性が報告されています。腎移植後の免疫抑制剤として広く用いられているほか、再狭窄の防止目的で冠動脈ステントのコーティング剤、リンパ脈管筋腫症(LAM)に対する薬剤として使われています。現在では世界各国でリンパ管疾患や血管奇形・血管腫瘍などに対して、使用されています。


副作用と治療後の経過
シロリムスには、以下のような注意点と副作用があります。
 治療中の生ワクチン(麻疹、風疹、水痘、BCG、インフルエンザ吸入薬)投与は禁忌です。
 治療中のグレープフルーツジュースは血中濃度を上げる可能性があります。

・消化器症状:下痢や腹痛など
・口内炎
・皮膚症状:発疹、毛包炎(ニキビににた症状)
・感染症リスクの増加
 免疫抑制効果により、血中濃度によっては体が感染症にかかりやすくなる可能性があります。
・高脂血症
 コレステロールやトリグリセリドの上昇が報告されているために定期的にモニターが必要です。
・間質性肺炎
 頻度は低い。風邪でもない状態で、咳嗽や呼吸困難などの症状が出た場合には相談が必要です。

副作用は口内炎やニキビ、感染症などが多いですが、重篤で中止が必要となることはほとんどありません。その他、小児にはまだ十分なデータはありませんが、海外の腎移植後のデータや国内のデータからは特別に危険な副作用は起こっていません。長期に使用することによる弊害は十分なデータがありませんが、成長障害などの報告はありません。

病変が縮小した後に、切除するという選択肢ができるかもしれませんし、出血や感染などの症状が落ち着くことも期待できます。基本的には1年以上の長期間の投薬になることが予想されます。投薬開始にて症状などが改善しても、途中で止めることで症状などが再発する可能性があります。
シロリムスは医療現場で広く使われていますが、特定の効果が期待される一方で副作用のリスクがあるため、使用には医師の指導と管理が不可欠です。副作用と思われる症状が出た際には担当医と十分に相談してください。
(2025年5月22日)

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