リンパ管疾患情報ステーション

リンパ管腫 (リンパ管奇形、lymphangioma、lymphatic malformation) とは?

リンパ管腫は、管状であるはずのリンパ管が異常に膨らんで袋状 (嚢胞 (のうほう) ) になったものが集まって塊を作っている病変で、嚢胞の中身はリンパ(液)です。リンパ管は、体のすみずみで生じたリンパ液を拾い集め、リンパ液に含まれる細菌やウィルスなどをろ過しながら、最終的に血管に戻すためにリンパ液が通る通路ですが、リンパ管腫はそのリンパ管の形成異常により生じる疾患だと考えられています。生まれる前のリンパ管が形成される時に生ずる異常と考えられており、多くは先天性もしくは小児期に発症します。一方、二次的な後天性発生と考えられるリンパ管腫もあることがわかっています。
病変の部分はリンパ(液)をため込んで水風船のようになっているので膨らんで見え、触れると柔らかく、弾力性があることが多いです。発生する場所は、首の辺りが最も多いですが、全身どこにでも発生する可能性があります。大きさも様々ですが、 悪性腫瘍 (あくせいしゅよう) ではないので、転移することはなく、ひとつのつながった病変になっています。嚢胞の大きさによって、袋が大きい「嚢胞状」、袋が小さくそれ以外の組織が多い「海綿状」、両者が混在している「混合型」に分類されます。 多くの患者さんは現行の治療で効果が得られますが、治療の限界があり、約20%のリンパ管腫の患者さんは難治性で現時点では有効な治療法がありません。
研究が進んだ結果、リンパ管腫は腫瘍ではなく、リンパ管の形成異常が原因だとわかってきたため、腫瘍を示す「腫」という言葉はふさわしくないと考えられ、近年は「リンパ管奇形」と呼ばれるようになっています。
「リンパ管腫症」という疾患もあります。名前は似ていますが、リンパ管腫とは性質が異なるところがあり、別の疾患として扱われています。しかし、似た症状を示すこともあり、時に両者の鑑別が難しいこともあります。
(2017年10月1日)

原因

どうして病気が起こるのかは、未だ分かっていません。胎児期にリンパ管が形成される際に起こった異常で、リンパ管が膨らんで 嚢胞 (のうほう) を作ってしまうと考えられています。この異常が発生する原因として、リンパ管が閉塞して、リンパ液の流れがさまたげられるため、溜まったリンパ液によってリンパ管が拡張するという説と、リンパ管に発生した一部の異常な細胞が、新たに異常なリンパ管を作り出してしまうという説とありますが、いずれも証明されていません。

(2017年10月1日)

疫学

出生時の発症が約50%、2歳までの発症が約90%です。発生率は1000-5000出生に1人と推定されています。性差はありません。遺伝性もないと考えられています。国内では約10,000例の患者さんの存在が確認されています(厚労科研難治性疾患政策研究事業「難治性血管腫・血管奇形・リンパ管腫・リンパ管腫症および関連疾患についての調査研究」班)。

(2017年10月1日)

症状
・合
併症

嚢胞 (のうほう) の発生場所は約75%が 頚部 (けいぶ)腋窩 (えきか) ですが、全身どこにでも発生する可能性があります。嚢胞が大きい嚢胞状は特に首やわきに多くみられます。首に発生した場合、3〜10%の確率で 縦隔 (じゅうかく) にも発生します。嚢胞が小さい海綿状は、舌、口腔内、筋肉内などの 皮下組織 に多く表れます。
嚢胞は腫れて、出っ張っていますが、通常、痛みは生じません。体の成長と同じペースで大きくなることが多いと考えられています。自然消滅することもありますが、厚みを増していくこともあります。しかし、体の違う場所にも新たに現れることや、嚢胞の範囲を拡大していくことはありません。嚢胞の場所や大きさによっては、見た目上問題になったり、体を動かす上で邪魔になったりします。あごや首の深いところにできた時には、気道を圧迫して呼吸困難になったり、のどが押されて飲み込むことが困難になったりすることがあります。
内部に出血を起こしたり(内出血)、細菌が侵入したり(感染)すると、嚢胞が急に大きく腫れたり、赤くなったりして、発熱したり痛みを伴ったりします。そして、治まって元に戻るまで数週間かかることもあります。お腹の中に嚢胞がある場合は、見た目ではわからず、腹痛や発熱、嘔吐、排便困難などの症状が出て、初めてこの疾患に気がつくことが多いです。

(2017年10月1日)

診断

体に膨らんでいる部分があることに気がついて、病院を受診するケースが多く見られます。膨らみの場所やその見た目、触った感触により、リンパ管腫を疑うこともありますが、それだけでは他の似た疾患と区別がつかないので、通常は画像検査(超音波、CT、MRI)が行われます。画像検査は、診断のためだけでなく、治療方針を決定する上で、また経過や変化を見ていく上で必要な検査です。画像検査でも、診断ができない場合は、膨らみの中に含まれている液体を吸引して内容を調べたり、手術で病変を切除して顕微鏡で観察(病理組織診断)したりします。
場合によっては、治療の方法を決めるために、リンパ液の流れを検査したり(リンパ管シンチグラフィ)、内視鏡を使って喉の通り具合を観察したり(咽頭 (いんとう) ファイバー)、バリウムなどの造影剤を用いて、のどや消化管の様子をレントゲン撮影しながら観察する検査(嚥下造影 (えんげぞうえい) 、消化管造影)を行ったりします。

小児慢性特定疾病における診断基準は次の通りです。

画像診断

◆超音波
 リンパ液を含んでいる嚢胞と嚢胞の間にある薄い仕切り(隔壁 (かくへき) )まで観察することができま
 す。
 嚢胞内における内出血の有無も確認することができます。
◆CT
 超音波では見えにくい場所への病変の広がりを知る上で有効です。治療の経過を追うために、毎回同じ
 向きで嚢胞の大きさを比較することができるという利点がありますが、放射線の被曝というマイナス面も
 あります。
◆MRI
 超音波では見えにくい場所への病変の広がりを知る上で有効です。嚢胞の性質や状態、周囲の血管や
 筋肉、臓器との関係をくっきりと見ることができます。また造影剤を用いると、他の画像でよく似た
 イメージとなる血管性の疾患との鑑別ができます。放射線被曝はありません。


図1、右頚部リンパ管腫(超音波)嚢胞は大小の黒い穴ぼこのように見えます。 図1、右頚部リンパ管腫(超音波)
嚢胞 は大小の黒い穴ぼこのように見えます。
図2、右頚部リンパ管腫(造影CT)リンパ管腫部は黒っぽく見えます。この写真では内部に大きな血管が通っています。 図2、右頚部リンパ管腫(造影CT)
リンパ管腫部は黒っぽく見えます。この写真では内部に大きな血管が通っています。
図3、右頚部リンパ管腫(MRI)嚢胞内のリンパ液は白く見えます。 図3、右頚部リンパ管腫(MRI)
嚢胞 内のリンパ液は白く見えます。

病理組織診断

切除した病変を顕微鏡で観察すれば、リンパ管の異常を診断確定させることができます。顕微鏡で見ると、嚢胞 (のうほう) は、一層の薄い皮の中にリンパ液が含まれていて、その周りを細い糸状の線維性組織や脂肪が囲んでいることがわかります。

(2017年10月1日)

治療

大きく「硬化療法」、「外科療法」、「その他」に分けられます。
悪性腫瘍 (あくせいしゅよう) ではないので、病変が命に直結することはありませんが、見た目の問題を解決するため、生活していく上で不自由な症状があるため、治療を行うことが多いです。
病変の部位や大きさによりますが、全体の約80%の患者さんは、治療によって病変が消えたり、非常に小さく目立たなくなったりします。自然に縮小したり、突然に起こる感染や出血の後に小さくなったりすることもあります。小さな嚢胞 (のうほう) が集まっている海綿状リンパ管腫の場合、治療への反応が悪く、病変がなかなか小さくならないこともあります。
治療後に病変が残る場合もありますが、生活に支障がない場合は、そのまま経過を見ることもあります。まれに何年もたってから、残った病変内に出血が起こって腫れたりすることがあるので、観察を続けることが大事です。
(2.その他の硬化療法は、健康保険適応外治療となります。)

硬化療法

硬化剤と呼ばれる薬剤を病変部に注射すると、強い炎症を起こし、1週間くらい発熱や 発赤 (ほっせき)腫脹 (しゅちょう)疼痛 (とうつう) が起こり、その後、嚢胞が小さくなります。2〜15週で効果が出ることが多いです。これにより、腫れている部分の大きさを徐々に縮小させます。嚢胞内のリンパ液を抜いてから硬化剤を注入すると最も効果が出ると考えられています。
一度の注入で極力病変の隅々まで硬化剤を行きわたらせるために、硬化剤に造影剤を混ぜてレントゲンで薬が病変に広がっていく様子をリアルタイムに観察しながら、治療を行うこともあります。
日本国内の場合、硬化剤はピシバニール(薬剤名:OK-432)が主流として多く使われています。今でも世界で比較的よく用いられている他の硬化剤として、ブレオマイシン(抗がん剤)、無水エタノール(アルコールほぼ100%の液体)、ポリドカノール、ドキシサイクリンがあります。
嚢胞の袋が大きい嚢胞状リンパ管腫には良く効くことが多いです。
現在の主流な硬化剤であるピシバニールは、後遺症を残すことなく、多くの場合、病変を縮小します。日本では唯一保険診療で使用可能な薬として認められています。海綿状リンパ管腫に対しては効果がはっきりしないことが多いです。

外科療法

◆切除術
 リンパ液を含んだ嚢胞を取り除く治療です。海綿状リンパ管腫は硬化療法が効かないことが多く、切除術
 の方が有効なことが多いです。全て取りきるよりは、左右のバランスや突出を改善することを目的としま
 す。リンパ管腫は嚢胞を完全に切除できれば完治するので、短期間で治療を完了することができることが
 利点です。
 しかし、切除する際に、まわりの正常な部分も一緒に切除せざるを得ないことが多く、機能的にも美容的
 にも問題が残ることがあります。特に顔や首の奥深くに嚢胞がある場合には、周辺に大切な神経や血管、
 細かい筋肉が多く存在するため、病変を部分的にしか切除できないことがあります。また、リンパ液が
 どんどん集まってきて、切除した端からリンパ液が止めどもなく流れてくることもあります(リンパ
 漏)。傷口や漏れてくるリンパ液を伝って細菌が入ってしまい、感染を起こすこともあります。
◆穿刺吸引 (せんしきゅういん) 、ドレナージ
 注射針や専用の管などを使ってリンパ液を体外へ排出します。

外科的な対症療法として

病変に対する根治的な手術ではありませんが、症状を改善するための治療として手術を行うことがあります
◆気管切開
 病変がのどの部分を囲んで気道が狭くなり、十分に呼吸ができない時に、息をするための穴をあけます。
◆胃瘻造設 (いろうぞうせつ)
 食事がのどを通らない時に、胃に直接栄養分を入れるため、食べ物を注入するための穴をお腹にあけま
 す。

その他療法

◆漢方薬(内服)
 最近、国内ではよく使われるようになっています。 越婢加朮湯 (えっぴかじゅつとう)、黄耆建中湯 (お
 うぎけんちゅうとう) など、浮腫を軽減する利水
 作用を持つことが知られているものが、リンパ管腫に対して有効であることがあります。
◆プロプラノロール(内服)
 最近用いられることがあります。効果についてはまだ一定のコンセンサスはありません。
◆インターフェロン療法
 細胞の増殖や活動を抑える薬であるインターフェロンを体内に注入する療法です。過去に使用された報告
 もありますが、効果は一定でなく、現在ではリンパ管腫にはほとんど用いられません。
◆ステロイド療法
 ステロイドとは、両方の腎臓の上端にある副腎から作られるホルモンの1つです。このホルモンを薬と
 して使用すると体内の炎症やアレルギーを抑えたり、免疫力を抑制したりします。細胞の腫れを改善する
 作用があります。これも効果は一定でなく、現在ではリンパ管腫にはほとんど用いられません。

(2017年10月1日)

予後

約80%の患者さんは治療により病変が消失、または縮小し、満足な結果が得られています。
首や顔、胸の奥深くに広がるタイプのリンパ管腫は治療が難しく、その危険性から治療そのものを行うことができずに、長期にわたって疾患とつきあっていかれる方もいらっしゃいます。

(2017年10月1日)
リンパ管疾患情報ステーション