リンパ管疾患情報ステーション

第2回 小児リンパ管疾患シンポジウム

 「小児リンパ管疾患の現在と将来への展望 −手を携えて向かう未来−」


概要

 2016年9月18日、第2回小児リンパ管疾患シンポジウムが国立成育医療研究センターにて行われました。
2015年2月に第1回が開催されてから、1年半の時を経て、第2回の開催となりました。


はじめに

 医療の世界において、1年半という期間が長いのか、短いのか、素人の私にはわかりません。ただ、私の勝手なイメージですが、医療現場は最新鋭の技術を有している一方で、物事があまり進まない印象を持っていました。医師の方々が1年半で何を見せてくれるのだろうと、期待と不安が入りまじった気持ちでシンポジウムにのぞみました。
今、シンポジウムを終えて感じること。それは、

シンポジウムはまだ2回目だけれど、医療従事者や患者さんの闘いはずっと前から始まっていること。
医療の世界では、医療従事者、研究者の日々の努力の積み重ねが確実に物事を動かしているということ。
その重みの上に第2回が開催されたということ。
「第1回」の時に私が感じた、少しそわそわとした空気はそこにはなく、確実に何かが根をはったような、そんな安定感があったこと。
そして、この会を医療従事者と患者さんだけの時間にしてしまうのは、もったいないということ

です。
シンポジウム開催の目的の1つは、情報の整理と共有です。午前の部は主に医療従事者、研究者を対象に、午後の部は患者さんや一般の方を対象に研究発表が行われました。また、今回、新しい試みとして、会場外に研究内容をコンパクトにまとめたパネルが設置され、参加された方々が熱心にご覧になっていました。まだまだ認知度の低い疾患ゆえに、医療従事者も患者さんもお持ちの情報量に個人差があると思いますが、多くの方にとって、とてもわかりやすい内容にまとめられていました。


午前の部

 


午後の部

 


プログラムについて

 1日を通して感じたことですが、個々の研究内容を深掘りするのではなく、医師達が様々な角度からアプローチし、包括的に疾患をとらえる場になっていました。発表テーマが多く、非常にボリュームのある、内容の濃い時間となりました。前回と比較して、午前午後共に1時間ずつ時間がのびており、それがより充実度を高めていたように思います。
午前の部では、神戸大学の平島先生が「リンパ管の発生学」に関して特別講演されました。発表後質問が相次ぎ、基礎研究に専念される平島先生という普段お会いする機会がない方の意見を伺えたことは、参加者にとって非常に有意義であったと思います。
また、シンポジウムのテーマ「小児リンパ管疾患の現在と将来への展望」から分かるように、疾患の根源に関わるようなとても前向きな情報が多く紹介されました。


TOPICS 1:リンパ管腫からリンパ管奇形へ

 最新のリンパ管奇形の分類が紹介されました。研究が進んだ結果、リンパ管の腫瘍ではなく、発生異常(奇形)が疾患の原因であることがわかり、分類名称が変更になりました。現在はリンパ管腫、リンパ管奇形双方が混在して使用されていますが、リンパ管奇形を使う論文が増えており、徐々に変わっていくものと思われます。リンパ管の研究がまだ未成熟であることを示す結果ではありますが、裏を返せば、研究が着実に進んでいる証拠でもあり、今後の更なる飛躍を期待したいと思います。


TOPICS 2:治療法の確立へ

 リンパ管奇形に関しては、約20%にのぼる重症・難治性の患者さんに確実に有効な治療法がないのが現状です。外科療法、硬化療法、全身療法をその都度選択しながらの治療となりますが、それぞれに課題も残ります。そんな中、近年注目されているのがシロリムス療法、無水エタノール局注硬化療法、そして漢方療法です。
シロリムス療法は、リンパ管奇形、リンパ管腫症、ゴーハム病などのリンパ管疾患の他、カサバッハメリット現象を起こす血管性腫瘍など様々な脈管異常に非常に高い有効性・安全性が確認されていますが、未だ世界中で薬事承認はされていません。リンパ管奇形、リンパ管腫症、ゴーハム病といった難治性リンパ管異常に対するシロリムス療法の研究が日本医療研究開発機構(AMED)に採択され、近い将来に医師主導治験が開始される予定です。 無水エタノール局注硬化療法は、限局性リンパ管腫を対象としています。より危険性が少ないことが確認されており、臨床試験がスタートしています。 漢方療法は、リンパ管奇形を対象としています。現在、治験実施を目指して、取組が行われています。


TOPICS 3:自己負担の軽減

 2015年7月に「リンパ管腫症・ゴーハム病」「巨大リンパ管奇形(頚部顔面病変)」が指定難病として、新たに認められました。難病医療費助成制度により、年齢の制限なく、医療保険等適用後の自己負担分が助成されるようになりました。


TOPICS 4:ガイドラインの作成

 一般の患者さんに向けたわかりやすい診療ガイドラインの作成が進んでいます。3つの研究班が約3年の時をかけ、国内外を問わず4,000以上の文献を読み込み、診療の基準や適切な治療の提案等をまとめており、完成間近です。これにより、患者さんは診療上で重要な判断の目安となる情報をどこにいてもweb上で確認できるようになります。


WEBサイトについて

 これまで紹介した全ての研究の元になるものが、患者さんの診療情報です。引き続き、症例登録の協力をお願いしたい旨、お話がありました。症例登録の目的は、医療従事者達の情報共有に加え、より効果的な治療法の研究を進めることにあります。患者さんが最新情報にアクセスしやすい環境を作ることにも繋がります。リンパ管疾患情報ステーションHPでは、常に登録を受け付けられるよう準備中です。このシンポジウムを機に、更なる登録が進むことを期待します。

リンパ管疾患情報ステーションHP(本HP) http://www.lymphangioma.net/

また、シロリムスと小児リンパ管疾患の研究の推進をお願いする懇願書を作成するための署名も集められました。第1回に引き続き「リンパ管腫症・ゴーハム病の患者・家族の集い」のメンバーの方が署名活動をしてくださいました。医師からも署名の意味や活動内容について説明があり、医師と家族の集いの方との間に強い信頼関係が築かれていること、その信頼関係が新しい一歩を生み出していることを実感しました。


交流会について

 交流会は、「リンパ管奇形(リンパ管腫)」「リンパ管腫症」「ゴーハム病」の3つのグループに分かれて、行われました。 スクリーンに向かって並んでいた机を片付け、皆さんの椅子で輪を作り、医師と患者さん、患者さん同士が顔を見て話すことができるようになりました。それぞれのグループに医師が入り、進行を行いましたが、最初はぎこちなく、質問しにくそうにしていた方も、少しずつ口を開き始め、最後には患者さん主役の輪があちらこちらに広がっていました。
患者さん達の話の内容は、とても切実で、とてもリアルでした。直前に行われた医師の発表が前向きなものだったので、私はよりギャップを感じ、より深く心に刻まれました。前を見て進んで行きたいけれど、足元も見なければいけない。その心の折り合いを患者さんお1人お1人がつけておられること、そんな当たり前なことを改めて感じました。

これから始まる子供の集団生活への不安
子供の世界がどんどん広がっていくことへの不安
通学、就職、結婚や出産への不安
長期の見通しがたちにくい不安
病気の認知度が低いために、容姿や症状に関して周囲の理解を得にくいことへの不安
かかりつけの医師が正確な知識を持っているかという不安

そういった患者さんの不安と真摯に向き合い、不安を少しでも取り除こうとする医師の姿は、私がこれまでに出会ってきた多くの医師のそれとは全く違いました。病気だけでなく、生活全般に心配りしてくれる医師の存在は有り難いものです。しかし、とても冷たい言い方ですが、医師は患者さんに情報を提供することはできても、患者さんと共有することはできません。患者さんの不安を払拭できるのは、同じ悩みを抱えた患者さんなのだと思います。同じ内容でも、医師を通じて、一例として聞く事と、経験したご本人から聞く事とでは、言葉のもつ深みが違います。患者さん同士の時間を作る意義を心より感じると共に、参加された方々にとって、何かのきっかけになることを願ってやみません。
2016年6月、アメリカで、3つの主要な患者団体がホストになり、世界中のこの疾患の専門家を集めた国際学会が開かれました。その会の開催により、珍しい疾患だけれどもそれだけを取り上げる会があるということ、各地で同じようなことに困り、苦しんでいる患者さんがいることを医師が共有することができました。患者さんの横のつながりが生み出す力は限りない可能性を秘めています。 患者さん同士が気軽に連絡をとりあえるような仕組みの必要性は、皆さん、認識されていています。シンポジウムに参加することが難しい方と、同じように交流できる場を作りたいという思いもあります。けれども、セキュリティの問題、管理の問題などがあり、なかなか作ることができないもどかしさがあります。同じ疾患を抱えているという共通点があっても、それ以外の部分では違う価値観をお持ちの患者さん同士ですと悲しいトラブルに発展することもあります。今後の大きな課題です。
交流会で聞かれたお話の内容は不安なものも多かったけれど、一方で、患者さん方のお話されている様子は、とても明るく、強く、頼もしく、ご病気を抱えておられることを忘れてしまいそうになることもありました。発症してから、現在に至るまで、歩んでこられた道は皆さん違うと思うけれど、それぞれの方がそれぞれのやり方で前を向く自分をつくってこられたのだと思います。その強さと医療従事者の頑張りが、リンパ管疾患の研究を進める原動力になっていることを実感しました。 患者さんも、医療従事者も、お互いの現在の歩みを直に感じられるから、一緒にもっと進みたいと思えるから、この「小児リンパ管疾患シンポジウム」は、単なる情報共有だったらきっと感じることのできない、少し特別な温かい空気がいつも漂うのだと思います。参加者に「私も力になれないだろうか」と思わせる何かがあります。だから、より多くの方にこのシンポジウムのことを知ってもらいたいと思います。


後記

 ある医師が、リンパ管疾患の研究を始めたのは、10年前、1人のリンパ管腫症の患者さんとの出会いがあったからだと話してくれました。当初、その患者さんの診断をつけることができず、様々な病理や画像を必死に調べ、この疾患に辿りついたそうです。その患者さんの治療の経緯を論文に書き、そこから研究が始まりました。もしその出会いがなかったら、その医師がリンパ管疾患の研究を始めることはなかったのかもしれません。全国にそういった出会いがたくさんあって、この研究の今があるのだと思います。

交流会の際、笑顔がひときわ印象に残った患者さんがいました。彼女は主治医の先生が心の声にまで耳を傾けてくれるから、疾患を受け入れながら進むことができると教えてくれました。また、世界希少・難治性疾患の日のイベントに看護師が付き添ってくれて、とても心強かったこと。第1回シンポジウムをきっかけに患者さんの知り合いが増えたこと。入院中にメールで励ましあったり、ゆっくり話をする時間を持ったりしながら、皆さんの頑張る姿を見て、自分も頑張ろうと思えること。そうやって歩き続けていることを話してくれました。彼女の笑顔の陰に、たくさんの方の存在があることを知りました。

私事ですが、娘が手術のために入院した時に、担当の医師に「なぜ先生は小児外科を選ばれたのですか?」と質問したことがあります。彼は
「子供には限りない未来があるでしょ。僕はいつでも、この子が僕より長生きするようにと思いながら治療をしています」
そう答えてくれました。当たり前でしょと言わんばかりに、さらっとそうおっしゃいました。 その時、私は、「この先生を絶対に忘れない」と思いました。 時に人生には、そういう出会いがあります。
共に過ごした時間は短くても、その時にかわした会話や、その時に漂っていた空気や、そういったものをその後、何度も思い出し、その思い出に助けられる。そんな出会いが、誰にもあると思います。
今回、ここでご紹介したお2人と出会えたことは、私にとってまた1つの宝物になりました。 シンポジウムが他の方々にとっても、そんな出会いの場になっていたらいいなと心から願います。



(文章・ご協力)参加者 O.Y.
尚、HP掲載にあたり加工・編集しております。

リンパ管疾患情報ステーション