リンパ管疾患情報ステーション

第1回 小児リンパ管疾患シンポジウム

 「リンパ管腫?リンパ管腫症?ゴーハム病?」


概要

 2015年2月15日、第1回小児リンパ管疾患シンポジウムが国立成育医療研究センターにて行われました。
センターの医師を中心とした「小児リンパ管疾患研究チーム」が発足して、約3年。
リンパ管腫、リンパ管腫症、ゴーハム病などリンパ管疾患に関するシンポジウムとしては、日本で初めての開催となりました。


シンポジウムに参加するにあたり

 シンポジウムの存在を知った時、最初に私の頭に浮かんだのは「?」でした。
「第1回?」
一体どういうことだろうと思いました。
あらゆる分野の先端技術を集めた場所、様々な研究がなされている場所、それが医療の世界だと思っていたからです。その世界で、今、「第1回」?
しかも、リンパ管は素人の私でも知っている言葉です。新薬の開発、新しいウィルスの発見、そういったことでもなさそうです。 少し考えて、私がたどり着いた答え。それは、今回のシンポジウムを主催する医師やチームにとって、第1回なのかということ。もしくは、今回は疾患の包括的な話ではなく、焦点を絞った、ディテールの話で、その点に着目したシンポジウムが第1回なのかということ。
そのどちらかだろうかと思いながら、会場に向かいました。


冒頭の挨拶からわかったことは

 まず私は「小児リンパ管疾患に関するシンポジウム自体が初めて」だと知りました。率直に驚きました。
リンパ管は血管と並び、人体においてとても重要な役目を果たしていますが、現段階では、血管に比べ、研究が遅れているということでした。2000年以降、急速に基礎研究が進んではいますが、リンパ管疾患についてはほとんど解明されていないのが現状でした。
そのため、今回のシンポジウムの開催意義は、リンパ管疾患の臨床や研究に関わる医療従事者、又、患者さんやそのご家族に各疾患の特徴(共通点や相違点)、治療や診察の現状を知って頂き、情報を共有することでした。
また、非常に稀少な疾患で、通常、患者さん同士が直接コミュニケーションをとる機会がほとんどないため、交流会を設け、患者さんのネットワークを強めて頂きたいという想いもありました。


医療従事者の反応は

 シンポジウムは午前の部、午後の部と別れており、最後に交流会が行われました。

   

午前の部は主対象が医療従事者、研究者。
午後の部は主対象が患者さん、ご家族、医療従事者。
そういった対象の差から、資料の見せ方や画像の専門性に違いはありましたが、プレゼンテーションは概ね以下のような内容でした。

・小児リンパ管疾患に関する研究の発表
・各疾患の特徴の理解、現状の治療や診断に関する情報の共有

午前の部は医師・研究者が各専門の見地から、リンパ管疾患にアプローチされました。発表者、聴講者、共に医療従事者や研究者であったため、専門性が高く、踏み込んだ内容だと感じました。 症例が少ないために、研究が進まない現状をふまえ、症例登録への協力依頼も行われました。
活発な質疑応答が繰り広げられましたが、実験の手順や数値の分析方法など、具体的かつ細かな質疑が多かったように思います。より研究を進めるために、医療従事者が知恵を出し合っている印象を受け、現状を前に進めたいという想いが伝わってきました。
発表者が、現段階では回答を用意できないものもあり、成すべきことの多さを確認した時間でもありましたが、同時に、その可能性が未知であることを実感する場でもありました。
医療従事者も研究者も新しい知識と共に課題を現場に持ち帰り、今後の研究に生かしてくださることと思います。


患者さんやご家族の反応は

 午後には、用意していた椅子が足りなくなるほど、患者さんやご家族がたくさんいらっしゃいました。遠方からいらっしゃった方、赤ちゃんを連れてこられた方、車椅子で来られた方。色々な制約を抱えながら集まられた方々に出会い、シンポジウムへの期待の大きさを感じました。
午後の発表は、噛み砕いたわかりやすい内容で、患者さんやご家族の求められる情報がコンパクトにまとまっていたのではないかと思います。
各発表の後に質問タイムが設けられましたが、質問は少数にとどまりました。 会場が広く医師までの距離が遠かったこと、多くの患者さんがいらっしゃり、個人的な質問を控えてしまったことなどが背景にあるのかもしれません。

そんな中、患者さんのご質問から、以下のような課題があがりました。

「医療従事者は一体どれくらいこの疾患について知っているのか?」
症例数が少なく、医療従事者の中でも、十分に知識が共有されていない疾患です。患者さんは、いつでも今回シンポジウムを開催したような専門医に診察してもらえるわけではありません。少しでも多くの知識を医療従事者に持ってもらうための努力が、継続して必要です。

「病気の境界が曖昧であるなら、今、自分が受けている診断は本当に適正なのか?」
医師から、特にリンパ管腫症、ゴーハム病については、境界を設けることが難しいという話がありました。 その話を受け、自分の病気が本当に診断されている病気なのか、不安を持たれた患者さんもいらっしゃいました。 情報は患者さんやご家族にとって良いものばかりではありません。発信と同時に、患者さんの不安をフォローできる体制が必要だと感じました。


会場の雰囲気が変わったのは

 交流会を開始するにあたり、会場に並べられていた机を全て取り除き、椅子を丸く並べ直しました。医師がその輪の中に入り、医師と患者さん、ご家族の距離がぐっと縮まりました。患者さん同士、お互いの顔を見て話ができるようにもなりました。 そのためか、会場の雰囲気が、能動的になるのを感じました。

・大勢の前では質問しにくかったことも、気軽に質問できる雰囲気になったこと。
・個人的な症状や治療法を、患者さん同士でお話できたこと。
・医師とじっくり話せたこと。

それらが患者さんとご家族の安心につながったのではないかと思います。
厚生労働省への難病指定の働きかけのために、署名集めを先導して行われた患者さんのご家族もいらっしゃいました。 患者さんのつながりが、大きなパワーになっていく様子を垣間見ることができました。
また、患者さんから「こんなにたくさんの患者さんにお会いしたのは初めてです。」という声が多数聞かれました。 ご本人にしか分からないご苦労やご不安。その胸のうちは、患者さん同士だからこそ、より、深く、共有できるのかもしれません。 交流会が終わった後、患者さんのお話の輪がいくつもできており、談笑がつきることはありませんでした。 その輪を見た時に、僅かかもしれませんが、このシンポジウムが患者さんのご不安を払拭する機会になったのではないかと感じました。
シンポジウムが始まった時に流れていた遠慮がちな空気は、終わる頃にはとても温かく優しいものに変わり、その余韻は、患者さんが帰られた後も、会場に漂っていました。


後記

 私事ですが、私は第2子妊娠中に、胎児に病気が見つかりました。医師からは、2つの病気の可能性を指摘され、1つの病気は4000分の1の確率、もう1つの病気は10万分の1の確率だと言われました。
医療の現場では、数字や確率に出会うことがたくさんあります。医師が素人である患者に状況を分かりやすく伝えるために、数字や確率を使うことは当然です。患者から治癒の確率や、手術の成功率を質問することもあります。 でも、当時の私は、医師との気持ちのずれを感じていました。 10分の1だろうが、1万分の1だろうが、1に当たれば、1なのです。自分がその1にあたった時点で、「何分の」はもう関係ないのです。物事に100%が存在しない以上、患者にとって、医師から示される数字には、いつだって不安がつきまとうのです。 患者は当事者であり、医師はあくまでも客観的な立場に身をおく技術者であり、そこには、差があり溝がある。そう思ったこともありました。

けれども、今回、私が知らなかった医師と患者さんとの関係を見ることができました。 お互いがそれぞれの立場で、できることをする。同じ1つの目標に向かって、手を携えて、協力する。 それにより、今まで動かせなかったものを動かしていく。そんな関係が出来上がっていました。 症例の少なさから、一般社会におけるリンパ管疾患の認知度が上がらないこと、研究が進みにくいこと、そのため十分な保障制度が整わないこと。 そういった現状を打破するために、医療従事者、患者さんが、それぞれのアクションを起こしていました。 そのアクションをより有効なものにしていくために必要な物。

・情報を常にアップデートする。
・情報格差をなくす。
・医療従事者と患者さんが緊密な連携をとる。
・信頼関係を築きあげていく。

その全てが今回のシンポジウムに凝縮されていたように思います。
交流会の中で、15歳の女の子がこんな風に自己紹介をしてくれました。 「私は色々な治療や入院をしてきました。だから、何でも聞いてください。」 彼女は病気によりおそらく生活に支障が出ています。それでも、同じ病気を抱える人達の力になろうとしている。その気持ちの強さに、私は胸が熱くなりました。 患者さんと一言で言っても、抱えていらっしゃる悩みや想いが異なることもあります。同じ病気の患者さんが集まる意味はそこにあります。色々な立場の患者さん同士が顔を合わせて、悩みや情報を共有する。時に、その場に医師が立ち会い、専門的な知識を深めていく。そうやって生まれた連帯感が、新たな力を生み出す。 シンポジウムはそんな時間だったのではないかと思います。

「患者さんと一緒に闘っていきたい」 「研究を進め、現状を打破したい」 「主治医だけではフォローできない患者さんの気持ちに寄り添いたい」 「手術では1人の患者さんの治療しかできないけれど、新しい治療法を確立して、多くの患者さんの治療を目指したい」 シンポジウムを開催するに至った、その根底にある医療従事者の熱い想いにも触れることができました。 彼らをこれまで突き動かしてきたその原動力には、患者さんとの出会いがあることも知りました。 それぞれの闘いの先にリンパ管疾患の未来がある。 そう感じられたシンポジウムでした。



(文章・ご協力)参加者 O.Y.
尚、HP掲載にあたり加工・編集しております。

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